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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)273号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 取消事由1及び2について

1 前示本願発明の要旨(明細書の特許請求の範囲の記載と同じ)に成立に争いのない甲第二号証(本願発明の願書並びに添附の明細書及び図面)によれば、本願発明は多段式立体駐車場設備に関する発明であつて、その構成中「自走床部」とは、道路或いは通路に面した出入口部に連なるところに入出庫の際に必ず通過するものとして設けられた、右出入口部と昇降部とを結ぶ自走経路であつて、入庫の場合には、自動車を出入口部から昇降部に進入させ、出庫の場合には、昇降部から出入口へ退出させる直進路をなし、更に、昇降部に設けた昇降装置に進入するまでの間の一時的な待機場所となる場所を指称するものであることが認められる。

2(一) 他方、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、「本発明は立体駐車設備に関し、その目的とするところは、スペース効率の高いこの種設備を得ることにある。」(同号証第一頁左欄発明の詳細な説明の欄第一行ないし第三行)、「駐車設備の自動車出入口にはターンテーブル11が設けられており、このターンテーブル11によつて自動車1の向きを調整、即ち方向規制を行なう。しかして、昇降機7内で駐車室2の向きにあつた姿勢に規制された自動車1は、そのまま直進するだけで第4図に示す如き疑似放射状に配列することができる。」(同号証第二頁左欄第一行ないし第八行)、「本発明は、出入口にターンテーブル等の方向規制手段、昇降機内に横行手段を設け、自動車を疑似放射状に駐車室に配置したものであるが、このような駐車姿勢は運転手つきの自走車の場合、昇降機から駐車室へ自動車が自走する時のハンドル操作によつてある程度実現可能である。しかしながら、本発明の如く機械設備の助けを借りてこれを行なう場合に比べると、その作業の難易度には格段の差があり、作業能率に大きくひびくばかりでなく、その効果を享受する程度においても格段の差がある。」(同号証第二頁左欄第一六行ないし第二六行)との記載が存することが認められるほか、第一引用例の第3図には、道路或いは通路に面した出入口部に連なつて、その中央部に車の方向規制をするためのターンテーブルを設けた床部と、右床部に続いて(すなわち、出入口の反対側に)、自動車の前後方向に自動車一台分用の広さを有し、自動車を横方向へ運搬移動させるための横行装置を設けた昇降機が設けられ、更に、その奥側に、右昇降機を隔てて疑似放射状に配置された駐車室を設けた駐車部が設けられていることが、また、その第4図は、第3図を基準階としたときの任意階層の駐車姿勢を示す平面図であつて、そこには第3図のターンテーブルを設けた床部及び駐車部に対応する平面に疑似放射状に配置した駐車室が設けられていることが認められ、かつ、これらの記載からは、右各図に示された駐車設備が多段式であること、そこに示された昇降機は任意階部に停止して、車を各駐車室に格納駐車させ、又は出庫させられるようにしてなるものであることが推認される。

(二) 右事実によれば、右ターンテーブルを設けた床部は、出入口部から進入した自動車を各駐車室における自動車の駐車姿勢(疑似放射状となる配置)に適合するように方向規制を行う場所であるとともに、本願発明の自走床部と同様、入出庫に際し必ず通過する出入口部と昇降機とを結ぶ自走経路としての機能及び出入口部から昇降装置に進入するまでの間の一時的な待機場所としての機能を有するものであることが認められ、しかも、右床部に設けられたターンテーブルは、スペース効率を高めるために疑似放射状に設けられた駐車室への自動車の自走による出入りを容易にするために設けられた、自動車の方向規制をなすための装置にすぎず、駐車室が疑似放射状に設けられていない場合には必要のないものであることは容易に理解し得るところであるから、右床部は本願発明の自走床部に相当するものということができる。また、第一引用例記載の昇降機には搭載した自動車を横方向に移動するための横行装置が設けられているが、右昇降機が出入口からターンテーブルを設けた床部を経て走行した自動車を搭載し各駐車棚へ搬送し、また、各駐車室から右床部へ搬送する機能を有するものである点において、出入口から自走床部を経て走行した自動車を搭載し、自走床部と各駐車棚との間を搬送し、往復する本願発明の昇降装置と何ら異なるところはないから、第一引用例記載の昇降機は本願発明のカーリフト機構或いはエレベーター機構等による昇降装置に相当するものということができる。

(三) 以上の(一)及び(二)の事実を総合すると、第一引用例には、道路或いは通路に面した出入口部に連なる自走床部とカーリフト機構或いはエレベーター機構等の昇降機を設置した昇降部と駐車部が道路或いは通路から奥に向かつて順次設けられ、かつ、自走床部と駐車部に任意階層の駐車棚を設け、右昇降機を任意階部に停止させて各駐車棚に格納駐車させ又は出庫させられるようにしてなる多段式立体駐車場設備、換言すれば、本件審決理由の要点2認定のとおりの、「道路或いは通路に面した出入口部に連なる自走床部とほぼ一台分用スペースの昇降部を隔てた部分を駐車部とし、自走床部と駐車部に任意階層の駐車棚を設け、昇降部にカーリフト機構或いはエレベーター機構等の昇降機を設置し、右昇降機を任意階部に停止させ、各駐車棚に格納駐車させ又は出庫させられるようにしてなる多段式立体駐車場設備」が記載されていると認められるのであつて、本件審決の右認定判断に誤りがあるとはいえない。

3 原告は、発明の先行技術との対比は先ずは引用例記載の発明の要旨においてなされるべきであるとして、本件審決の第一引用例記載の発明の認定を争うが、特許法第二九条第二項が引用する同条第一項第三号の「刊行物に記載された発明」とは、その刊行物が特許公報の場合にあつては、その発明の要旨に限らず、当該公報の発明の詳細な説明の欄に記載されているその発明の実施例その他、当業者が容易に実施できる程度に示された技術も等しく「刊行物に記載された発明」に含まれるのであつて、原告の右主張は、その前提において誤つている。

また、原告は、自走床部、自動車の昇降装置及び移動駐車の点において一致点の誤認及び相違点の看過を主張する。しかし、第一引用例記載の「ターンテーブル」そのものが本願発明の「自走床部」に当たるのではなく、「ターンテーブルを備えた床部」が「自走床部」に当たると認められること、及び昇降装置により出入口に連なる自走床部から走行した自動車を搭載して右床部と駐車棚(駐車室)との間の搬送の往復を行う本願発明の構成自体第一引用例に開示されていると認められることは既に説示したところから明らかであり、他方、第一引用例記載の装置におけるターンテーブルによる自動車の方向の設定、昇降機内の横行装置による移動、駐車室における駐車位置の設定等は本願発明の要旨との関係で対比の対象とはされない構成である。したがつて、両発明の一致点の誤認及び相違点の看過に関する原告の主張は理由がない。

4 そこで、前認定の本願発明と第一引用例記載の発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は、本件審決の理由の要点3摘示のとおりであると認められる。

三 取消事由3及び4について

次に、原告は、本件審決は相違点(1)の判断及び本願発明の奏する作用効果の認定を誤つた旨主張するので、この点について検討する。

第二引用例に本件審決認定のとおり、任意階層の駐車棚を地上部及び地下部に設ける点が記載されていることは原告の認めるところであり、かつ、第一引用例及び第二引用例記載のものは、いずれも本願発明と技術分野の等しい多段式立体駐車場設備であるから、前認定の第一引用例記載の多段式立体駐車場設備において、駐車スペースをより多く確保するために第二引用例の記載に基づいて駐車棚を地下部にも構築するようにすること、その際に、駐車棚を駐車部の地下だけでなく自走部の地下にも設けるようにすることは、原告が主張するような本願発明と第一及び第二引用例記載の発明との構成上の差異にもかかわらず、当業者において容易に想到し得ることであつて、別段困難なこととは認められず、原告の主張する不合理、不経済性(それが具体的に何を指すのか明らかでないが)が生ずることも考えられないところであるから、原告の本件審決は相違点(1)の判断を誤つた旨の主張は理由がない。

また、作用効果の誤認の主張についても、右主張中、本願発明に係る設備においては、自走床部に十分な待機場所があり、昇降機が複数設けられており、処理能力は著大であるとの点は、本願発明の明細書の特許請求の範囲には、十分な待機場所を設けることや昇降機を複数設置すること、更には、駐車室(駐車棚)における自動車の駐車の仕方(並列状に駐車させるか放射状に駐車させるか等)はその要件として規定されておらず、また、本願発明の構成から当然に生ずる作用効果とも認めることはできないから、本願発明の構成に基づく作用効果と解することはできないし、また、本願発明に係る設備は操作性において優れているとの作用効果は、本件審決摘示の第一引用例記載の装置に第二引用例記載の(ロ)の構成を付加することによりもたらされる以上の効果と解することはできないし、本願発明に係る設備は、実施コストが低廉で、操作が簡単で、実効性に富み、土地を効率よく使用できるとの点は、土地の形状、設備の内容及び規模等によつて決まる事項であつて、本願発明の構成が当然にそうした効果を奏するものと認めることはできない。また、原告は、本願発明の奏する効果は第二引用例記載のものの奏する効果とは異なる旨主張するが、本件審決は第二引用例からは、駐車棚を地下部にも設けるという技術思想を読み取ることができるとして引用したものであるから、右の点の効果だけを問題とすべきであるところ、右の構成のもたらす効果の点に相違があると解することはできないから、原告の前記主張は当を得ないものである。

したがつて、原告の本件審決は本願発明の作用効果の認定を誤つた旨の前記主張も採用することはできない。

五 叙上の事実に相違点(2)の判断は原告の認めるところであることを総合考慮すると、本願発明は第一引用例記載のものに第二引用例の記載事項を付加することにより、当業者が容易に想到し得る程度のものとみるのを相当とし、本件審決の認定判断は正当なものと認められる。

六 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

道路或いは通路に面した出入口部に連なる自走床部とほぼ一台分用スペースの昇降部を隔てた部分を駐車部とし、自走床部と駐車部の地上部及び地下部に任意階層の駐車棚を設け、昇降部に、自動的に昇降可能なカーリフト機構或いはエレベーター機構等による昇降装置を設置し、操作部材により昇降装置を任意階部にて停止させられて、自走床部の地上或いは地下の、或いは駐車部の任意階の、各駐車棚に格納駐車させ又は出庫させられるようにして成る、多段式立体駐車場設備。

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